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ふと、窓の外を見ればそこは河原沿いの道。すぐ側を流れる川が太陽の光を浴びて輝いている。暫く走ると見えて来たのは一際綺麗に咲いた大きな桜の木。
その一本桜の根元で、膝を抱えて座り込む女の子の姿が瞳に写り込んだんだ。
………あの子、泣いてるんじゃないか?
「車、停めてください」
「何言ってるの?もうすぐ屋敷に……」
「気分が悪いから外の風にあたって帰ります。すぐ戻るから先に帰っててください」
お母さんは「そう?」と心配する素振りを一瞬みせたが、運転手に車を止めるように指示。そのまま走り去って行く車を見送って、俺は女の子の所にゆっくりと足を進めた。
今考えれば、あまり人に対して興味を示さない俺があの行動を取ったのか分からない。ほっとけば良いのに。だけどその時は、体が勝手に動いた。まるで桜の木が俺を呼んでいるように引き寄せたんだ。
「……ねー。キミ、大丈夫?」
一定の距離を保ったまま中腰でそう話掛けると、ビクッと驚いたように顔を上げた女の子。
「わっ、!?」
次の瞬間、強風と一緒に無数の桜の花びらが、勢いよく宙へ舞い上がった。
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