序章『四三二』

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ドライアイスのベッドに寝かされている。早く冷たい檻から助け出してやりたい俺は、明日へヴンを葬儀に出してやるつもりでいる。  それはつまり別れだ。しかも永遠の。 「死ぬことが幸福なもんかよ。別れを喜んで受け入れるやつがどこにいるってんだよ!」  矛盾してる。どんな答えを出そうと、結局どこかで矛盾する。だから俺は納得できない。  俺は膝の上で組んだ両手に目一杯の力を込めた。怒りが破壊衝動と直結して、理性が及ばず爆発しそうだった。 「どうすりゃいい? どうすりゃいいんだよ! 哀しいなら泣けばいいのか? 泣いたら答えが出んのか? どんな答えでも俺は納得しねー! 俺はじゃあ、どうすれば満足出来んだよ!」  混沌としてる。喜怒哀楽の感情が一気に溢れ出したようにぐちゃぐちゃだ。寝たきりのへヴンが死んで、苦しみから解放されたかもしれないと喜んだ気もするし、本当に何も出来ない自分に怒った気もするし、へヴンの死に心から哀しんで、思い出に浸って楽しんでる。明確な答えなど、言葉などないんだろう。 「俺はだから、これから先もこうやって苦悩し続けるんだ……」  俺は考えることに疲れ果てたのか頭の中がからっぽになった。破壊衝動を押さえ付けることに耐え切れなくなり、拳を振り上げてベンチに向かって振り下ろそうとして、 「わたしを呼んだのはお前か?」  俺は中断した。若い女の声が破壊衝動にブレーキをかけたからだ。 「苦悩しているな。しかし、その拳が砕けたとしても世界は平穏のまま動き続ける」 「え?」  俺はマヌケな声を出して顔を上げた。あたりはいつの間にか完全に夜になっていて、公園の明かりが逆光となり女の姿はシルエットでしか捉えられない。 「もう一度問う。わたしを呼んだのはお前か?」 「え……あ……ええと、君は?」 「聞いているのはわたしだ! 呼んだのか呼んでないのか!」  俺はいきなりの大音量に体を震わせた。完全に威圧されて、声がうまく出せないほどだ。 「あ……と、よ……呼んでません」 「ではなぜわたしはここにいる」 (そんなこと知るか!)  俺は不意に立ち上がり、手に滲んだ汗をシャツにこすりつけた。そして異様というか異常というか、とにかくなにかただならぬものを感じて、普通の人間の普通の対応をしようと考えた。 「あのさ、俺は君のことを呼んだ覚えなんかないん
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