序章『四三二』

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だよ。だから……」 「今一度問う。わたしを呼んだのか」  ここで俺はやっぱりそうかと確信した。  つまりこの女は少し危ないやつなのだ。どういう状況なら自分自身が呼ばれた気がするのか分からないし、なによりも俺の言葉を聞いていない。なんで自分がここにいるのかも理解していないなら、わたしはおかしいですと公言するようなものだ。 「君を呼んでないし君がここにいる理由も俺には分からない。じゃ、急ぐから」  俺は適当な言葉を残して脱兎と化した。突然の状況にへヴンのことを保留していた自分も許せない。 (場所を変えよう。近くの神社にでも……)  そこもまた散歩の定番コースだったのだが、俺は神社に向かうつもりが足を止めてしまっていた。なぜなら、 「貴様を逃すわけにはいかん」 (なんだ?)  今度は牧師の格好をした男が目の前に立ちはだかった。聖職者も人間であるという見本なのか、男はサングラスをかけていて髪は肩よりも長かった。その全身黒ずくめの聖服の襟元から伸びているチェーンには十字架がかけられているが、イエスではないなにか奇妙な物が張り付けにされている代物だった。しかし逆光によってその奇妙な物がなんなのかは分からない。 「守護者は貴様だな。では聞こう。あれをどこへ隠した」 「あれってなんですか……?」  俺はか細い声で聞いた。さらにだが、俺はまたもや威圧感に気圧されてうまく言葉を発せないでいたのだ。この男から感じる異様な気配によって。 「なるほど、やはり白を切るんだな? まあそのために準備を怠らずに出向いたわけだが」 「白を切るってなんだよ! なに言ってんのか全然分かんねーよ! つーかお前らなんなんだよいったい! 俺は一人になりてーんだよ!」  気圧されていた心が恐れになって、俺はつい大声を出していた。男は機嫌を悪くしたのか眉間にシワを寄せた。 「お前ら?」 「そうだ……いや、そうです。ほらそこにあんたと同じ黒ずくめの仲間が……」  と俺は振り向き女を指差したのだが、あろうことかそこにあったのは公園の遊具の定番であるシーソーだった。 「あれ?」 「ふっ……くくく……あーはははは!!」  男が笑いだし、俺は男に視線を戻した。 「なるほど! あくまで白を切る……はぐらかそうというわけだ!」 「違う本当に……」 「指の一つでも切り落とせばなにか
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