93人が本棚に入れています
本棚に追加
『あ、大事な事を忘れてた。僕は君を外史に送るけど、君はこれから行く世界にとって他所から来た異物。つまりは邪魔者なのさ。世界は偶然を装い君を殺しに来るかもしれない』
漠然とした物言い。
世界が殺しに来るとはどういう事か想像もつかなかった。
その考えが表情に出ていたのか、こちらの顔を見た少年は少し考えるように宙を見上げ、言葉を選びながら話し出した。
『例えばね…戦場で君に思わぬ所から流れ矢が来たり、旅をすれば賊にばかり襲われたり、何かと不穏な事に巻き込まれるかもしれないのさ。世界の干渉でもあからさまな事を何回も!ってのは出来ないはずだけど、今までよりは気をつけて過ごすんだよ』
ニッコリと笑いながら言い切った少年は、こちらに向かって歩きだした。
『一応ね、これから行く世界に相応しい位の力は与えるから。あちらの世界の関羽や張飛より少し弱いけど、技を磨けばいつかは勝てるようになるかもしれないよ』
力。
憧れていた。
いつも皆の先頭に立ち、己の武で戦場を切り開く、皆を守る存在。
『…感謝する』
嬉しかった。
だが、同時に情けなくもあった。
間違いなく人外であるこの少年の力を借りても、叔父達に及ばない自分自身の力が。
『別にいいんだよ。僕の初めての部下になってもらうんだからね!少しは優しい上司ってところみせなくちゃ』
嬉しそうに笑いなんども頷く少年は、また一歩こちらへと近づく。
『それじゃ、頑張って来なよ!僕もずっと見守ってるからさ』
そして、こちらの胸に手を伸ばし、優しく押し出した。
背後には黒い渦。
完全に油断していたのもあり、何の反応も出来ないまま渦へと吸い込まれた。
『困ったら僕の名前を呼ぶといいよ。助けてはあげないけど相談には乗ってあげるから。僕の名は伏羲。いつでも呼んでね』
そうして手を振る少年は視界から消えていった。
最初のコメントを投稿しよう!