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『人さらい。いや、山賊か』
視界を右にずらせば、広場に大勢の村人が集められているのが見えた。
賊達はその中から数人を選びだし、縄に繋いで連れていこうとしていた。
売れそうな者や自分達が楽しめそうな者を連れていき、それに当て嵌まらない者は皆殺しにされるのだろう。
『俺らが山賊だと!?お前!俺らは黄布賊だ!今の世を変える為に国軍と戦う俺らを山賊なんかと一緒にするんじゃねえ!』
黄布賊。
教祖張角の元に集まった信徒達。聞いたことはある。だが、それはすでに過去の事のはず。
黄布賊の残党が、いまだに生き残っていたとは考えにくいが、そんなことより今は村人を守らなくてはいけない。
先程、私の言葉に反応し怒声をあげた男、よくみれば他の者よりは少しだけ身なりが整っていた。おそらくこの部隊の部隊長なのだろう。
こちらをただの村人だと思っているのか、構えもせずに隙だらけにこちらに歩いてきていた。
距離がもう少し近付いたら拳で一撃を喉にいれ、うろたえた隙に剣を奪い部隊長を捕らえ、それを盾に村人達を解放させる。
そう計画を立て、男が近づくのを待った。
『お前を売るのは辞めだ。ここで死んどきな!』
賊が剣を振り上げた、その瞬間に動き始めた。
座り混んでいた状態から勢いよく立ち上がり、喉に一撃、それから
ゴキッ
不気味な音がした。
戦場では幾度となく聞いた音。骨が折れる音だ。
それは軽く握った拳の先から聞こえた。
隙を作るために放った一撃。それなりの力しか入れていなかったそれは、自分で考えていたよりも鋭い攻撃であったらしい。
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