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不覚であった。
敵を追い払うより、村人を守るのが優先であったはずなのに。
もしここに居たのが父なら、真っ先に民を守ろうとしただろう。
もし関羽殿や張飛殿がここにいたならば、人質を取られるような下手はうたないだろう。
全てにおいて中途半端な自分だからこそ起きた、この状況であった。
動けずに睨むことしかできない俺をおいて、賊達はじりじりと下がっていく。
逃がすしかないか…そう思った瞬間、賊の命は散った。
家々の合間から飛び出した青龍刀を持つ黒い長髪の女と、自身の倍はありそうな蛇矛を持った赤髪の少女が彼等を襲ったのだ。
彼女達は一瞬で賊達の命を奪い去った。
凄まじい一撃。おそらく、二人の賊は自分が何故死んだのかも理解できなかったはずだ。
見ただけで自分ではこの娘達に勝てないとわかるような、そんな一撃だった。
黒髪の女は村人達の無事な姿を見て安堵しながらも、すぐに周囲を見渡していた。
『鈴々、他に賊の姿はあったか?』
『多分この人達で最後なのだ。みんな逃げちゃったのだ』
得物から血を払い、ごく自然に話す彼女達は相当に戦慣れしているのだろう。
二人で自然に会話していながらも隙は全く見えない。
やはり相当な武人だ。
『鈴々ちゃ~ん!愛紗ちゃ~ん!二人とも早いよぉ…』
そこにもう一人、桃色の髪の女が現れた。
穏やかそうな顔に汗を浮かべ、息を切らせながらも二人に声をかけている。
『申し訳ございません、桃香様。村に火の手が上がっていたものですから、急を要したのです』
言葉遣いから察するに、後から来た女と主従関係なのだろう。
あれ程の武人を従えるのだ。相当の家柄か相当の鬼才。そう思い警戒したのだが………
『もう賊は追い払いましたから、後は火を消すだけです!急ぎましょう!』
『わ、わかったよ!村の人達にも手伝ってもらわないと!』
きびきびと指示を出す黒髪の女の方が主にふさわしく見えた。
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