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真っ白い部屋だった。
見渡す限り何もない。
人も、空も、大地も。
何一つ存在しない純白の世界。
そこに、一人の男が立ち尽くしていた。
先程首を断たれ、命を失ったはずの存在。
『ここは…私は一体………』
本人も無くなったはずの自らの首を触り、何故自分が生きているのか、ここはどこなのかと悩んでいた。
『残念だったね。わかってると思うけど、君は死んでるよ』
ふいに響いた声。
思わず腰の剣に手をかけて構えをとる。
『誰だ!姿を現せ!』
空間に響く声。
しかし、周囲は変わらず純白の世界のままで、先程の声の主などどこにもいない。
『君の肉体は死んだ。僕も見てたし、君だって覚えてるだろ?だけど、君のその義父の為に尽くす献身的な精神をこのまま閻魔に渡すのが惜しくてね。よかったら僕に仕えてくれないかと思って連れてきたのさ』
よく聞けば幼い声であった。無邪気に突拍子のない事をいうそれはまさしく子供の空想話のようで、それでいて聞き捨てならない言葉でもあった。
『例え冗談であろうとも、二君に仕える気はない』
はっきりとそう言い切った。
『だよね!そういうと思ったよ。だからね、交換条件を考えたんだ』
こちらの返事が期待通りだったのか、幼い声も嬉しそうに返事を返した。
『君の主。劉備のその後、つまり君を処刑した後の事なんだけど興味ないかい?』
『………』
興味はある。知りたいに決まっている。
しかし、興味本位で下手な約束などするものではない。
そう考え、明確な答えをすぐにだせずにいた。
『あ、大丈夫だよ!これくらいならタダで教えてあげるから!』
その考えを読みとったように、声もそういうと真っ白だった空間に急に色が加わり始めた。
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