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姉の乃梨子は、高校時代演劇部に所属していた。
3年生の時、『ロミオとジュリエット』のヒロイン役に選ばれた彼女は、本当に嬉しそうだった。
ヒロインという大役を任された事はもちろんだが、他にも喜びの理由があった。
「美和ちゃんだけに、教えてあげる。
あのね、ロミオ役の人、
私の好きな人なの。」
************
星南高校の学園祭で、舞台セットの窓辺に立つお姉ちゃんは、ジュリエットの衣装がよく似合い、すごく綺麗だった。
対立しあう立場にありながら、お互いに惹かれ合ってしまう2人。
そんな切ない想いをお互いに語り合うシーンでは、迫真の演技に、私の目にもうるうると涙が浮かんできた。
(そ、そうだ。せっかくだから、ロミオの顔も見ておかないと。)
お姉ちゃんにばかり気を取られていた私は、そこで初めてロミオに視線を移した。
「あっ…」
一瞬、息が止まった気がした。
ロミオ役のその人は、潤いのあるとても綺麗な目をしていた。
苦しげに、ジュリエットに囁かれる愛の言葉は、彼の深く甘い声によって、より切なげに感じられる。
突然私の心臓が、壊れそうなくらい激しく動き出した。
(やだ、どうしちゃったの私。
彼は、お姉ちゃんの好きな人なのに…)
何度自分に言い聞かせても、胸のドキドキは収まってくれず、結局私は最後まで赤い顔をしながら、ロミオ役の彼を見つめていた。
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