第1章

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姉の乃梨子は、高校時代演劇部に所属していた。 3年生の時、『ロミオとジュリエット』のヒロイン役に選ばれた彼女は、本当に嬉しそうだった。 ヒロインという大役を任された事はもちろんだが、他にも喜びの理由があった。 「美和ちゃんだけに、教えてあげる。 あのね、ロミオ役の人、 私の好きな人なの。」 ************ 星南高校の学園祭で、舞台セットの窓辺に立つお姉ちゃんは、ジュリエットの衣装がよく似合い、すごく綺麗だった。 対立しあう立場にありながら、お互いに惹かれ合ってしまう2人。 そんな切ない想いをお互いに語り合うシーンでは、迫真の演技に、私の目にもうるうると涙が浮かんできた。 (そ、そうだ。せっかくだから、ロミオの顔も見ておかないと。) お姉ちゃんにばかり気を取られていた私は、そこで初めてロミオに視線を移した。 「あっ…」 一瞬、息が止まった気がした。 ロミオ役のその人は、潤いのあるとても綺麗な目をしていた。 苦しげに、ジュリエットに囁かれる愛の言葉は、彼の深く甘い声によって、より切なげに感じられる。 突然私の心臓が、壊れそうなくらい激しく動き出した。 (やだ、どうしちゃったの私。 彼は、お姉ちゃんの好きな人なのに…) 何度自分に言い聞かせても、胸のドキドキは収まってくれず、結局私は最後まで赤い顔をしながら、ロミオ役の彼を見つめていた。
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