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ボクに気付いたキミは本から顔を上げた。
「ああ、樹くん。ちょっと手を出して」
ボクは自分の席に近づきながら「何の本?」と聞く。
「これ? 手相だよ。だから手見せて」
手招きするキミは何だか嬉しそうだ。
その笑顔に引き付けられるみたいに、椅子に座って手を差し出すボク。
「はい」
差し出した手に、キミの手が添えられた。
ひんやりとして、滑らかな感触が手から全身に伝わる。
感触に浸るボクの手を、キミはまじまじと覗き込んだ。
「えーと、これが生命線……頭脳線……感情線……あっ!」
手相を追ううちに本から手を離したせいで、パタンと本が閉じてしまう。
「あわわ……!」
慌てる姿に綻びそうになる口元。
「多分、恵菜さんの手相みると、《周りに思われてるよりそそっかしい》って書いてあるとおもうよ」
ボクはあまり大袈裟にならないように、口の端だけでクスリと小さく笑うことにした。
「なによそれ。ヒドイ」
手相と本を見比べながらキミが発したのは、少し怒ったような声。
そんな声が心地好く、ボクの内側を揺らす。
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