手相

2/4
前へ
/575ページ
次へ
      ボクに気付いたキミは本から顔を上げた。 「ああ、樹くん。ちょっと手を出して」 ボクは自分の席に近づきながら「何の本?」と聞く。 「これ? 手相だよ。だから手見せて」 手招きするキミは何だか嬉しそうだ。 その笑顔に引き付けられるみたいに、椅子に座って手を差し出すボク。 「はい」 差し出した手に、キミの手が添えられた。 ひんやりとして、滑らかな感触が手から全身に伝わる。 感触に浸るボクの手を、キミはまじまじと覗き込んだ。 「えーと、これが生命線……頭脳線……感情線……あっ!」 手相を追ううちに本から手を離したせいで、パタンと本が閉じてしまう。 「あわわ……!」 慌てる姿に綻びそうになる口元。 「多分、恵菜さんの手相みると、《周りに思われてるよりそそっかしい》って書いてあるとおもうよ」 ボクはあまり大袈裟にならないように、口の端だけでクスリと小さく笑うことにした。 「なによそれ。ヒドイ」 手相と本を見比べながらキミが発したのは、少し怒ったような声。 そんな声が心地好く、ボクの内側を揺らす。
/575ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5824人が本棚に入れています
本棚に追加