日常

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      冬用である紺色のセーラー服に身を包んだ君の姿が視界に映る。 「おつかれさま」 どちらともなく互いに言い合った。 六月になれば男子は学ランを脱ぎワイシャツになるし、女子は夏用の白いセーラー姿になる。 夏服に変わるのは、まだ一ヶ月先のことだ。 生徒会室は、二つの長机が部屋の真ん中にくっつけられて置かれていて、その回りに三対三に向かい合う形で椅子が六つ並ぶ。 会長、副会長、書記、執行委員三人の六名が座り会議をする席。 ボクはいつも一方の中央に座る。キミはいつも反対側の中央に。 キミとボクは、机二つ分隔てられた向かい合わせ。 挨拶をすませたキミは、胸元の赤いスカーフを僅かに揺らして席に着く。 「樹くんって……」 キミが口にしてくれたのがボクの名前。 『樹<いつき>』それがボクの名前。 何故かみんな苗字より名前で呼ぶ。 そのまま微笑むような口調で話を続けるキミ。 「本、好きだよね」 「うん」 答える顔は本に向けたまま。 話すキミの顔を見たら、きっとボクの気持ちが見えてしまう気がして。 「今日は何の本?」 「落語」 答えながらニヤリと口元が引き攣るのが分かる。 本の中に面白い言い回しがあったからだ。 「なんで落語? たまに樹くんっておじいちゃんみたいだよね」 そう言うと手で口元を隠すように笑う。ボクが好きな仕草。 「昨日読んでたブ厚い本は?」 「読んだよ。昨日」 笑いながら更に尋ねるキミに、短く答えてから本を閉じた。
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