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心の暖気運転じみたものはもう良いだろう。
キミの顔を見ても、話をしても、もう気持ちが表には出ないはずだ。他の誰とも同じように話せる。
「本を読むのをもっとゆっくりにして勉強しなよ」
キミの笑うような声が耳をくすぐる。
「してるよ、学校で」
答えるボク。
「そうだよねぇ、樹くん成績いいもんね」
「ボクも不思議なんだけどね」
「この前の学力テストも県で二十位くらいだったんでしょ?」
「うん、だったね」
「わたしが二年生の時、そんな点も、順位も取れなかったなぁ。きっと樹くんが狙う高校なんて絶対受からない自信がある。」
変に胸を張ってクスクス笑うキミ。
「一番近くの高校しか行く気はないよ。恵菜さんは?」
『恵菜<えな>さん』それがキミの名前。
ボクはキミをさん付けで呼ぶ。きっと、呼び捨てなんてできる日は来ない。
キミの名前を呼ぶたびに、一学年の開きがボクに重くのしかかる。多分、キミを想うかぎりずっと。
「まだ決めてない、迷ってる」
そう言って「エヘヘ」と笑った時、入口の扉が開いて他のみんなが入ってきた。
もう少し、ゆっくりでも良いのに……と思うのは、いつものことだ。
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