握手

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子供の考え出したものであるから、別にたいしたべからず集ではなく、「朝のうちに弁当を使うべからず。(見つかると、次の日の弁当がもらえなくなるから)」、「朝晩の食事は静かに食うべからず。(ルロイ先生は、園児がにぎやかに食事をしているのを見るのが好きだから)」、「選択場の手伝いは断るべからず。(選択場主任のマイケル先生は気前がいいから、きっとバター付きのパンをくれるぞ)」といった式の無邪気な代物で、その中に、「ルロイ先生とうっかり握手をすべからず。(二、三日鉛筆が握れなくなっても知らないよ)」というのがあったのを思い出して、それで少しばかり身構えたのだ。この「天使の十戒」が、さらに私の記憶の底から、天使園に収容されたときの光景を引っ張り出した。 ふろしき包みを抱え園長室に入っていったわたしを、ルロイ修道士は机越しに握手で迎えて、 「ただいまから、こがあなたの家です。もう、なんの心配りもいりませんよ。」
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