赤い首輪

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「お父さんが寂しくないように」 そう言って娘の晴美が子犬をプレゼントしてくれた。 晴美は嫁いで家を出て行く…。 きっと、私が寂しくないようにだろう。 「お父さん、寂しがり屋だから、よろしくね」 晴美はそう言って子犬の頭を撫でた。 「まだ、飼うなんて言ってないぞ!」 私は犬を飼うのはずいぶん久しぶりで不安でそう言った。 「子供の頃飼ってたんでしょ?」 「もうずいぶん前だ!半世紀以上は経ってる!ムリムリ、連れて帰れ」 そう言い放ったが晴美は子犬を置いて帰ってしまった。 子犬は尻尾をブンブン振って私の足元に来て、クンクンと鼻を鳴らす。 腹が減ってるのか? 抱き上げると綺麗な茶色い目が可愛くて可愛くて…昔飼ってた犬を思い出す。 名前はコロ… コロコロ太ってたから。 晴美は言い出したら利かない、子犬も善意からだろうし…。 名前…どうしようか? 子犬は柴犬という犬種だ。 ハチ? 太郎? 白?…明らかに茶色の毛並みだし… うーん。 オスだしなあ…。 あ、平蔵! 私は好きな時代劇の主人公の名前に決めた。 「平蔵、よろしくなあ」 そう言うと平蔵は鼻をクンクン鳴らした。 凄く可愛く思えた。 それから…平蔵の世話は大変だった。 でも、利口な子でトイレの場所も、芸もすぐに覚えた。 なにより私が帰宅すると必ず玄関でおすわりをして待っていてくれる平蔵が可愛くて、帰るのが楽しみになっていた。 妻が死んだのは5年前。 それから娘の晴美と二人暮らしだったが、子供がいれば寂しくなかった。 でも、嫁いで家を出て行くと聞いた時はどうしようもないほどに寂しさに襲われ…一人で生きていけるのか?と思った程。 でも、平蔵が居る。 いつでも、私は平蔵と一緒に行動をした。 私は元から人付き合いが苦手で、近所に話す友人等居なかったが、平蔵を連れて散歩へ出ればいつの間にか犬友達が出来た。 会話のほとんどが飼い犬の話。 それが楽しくて仕方なかった。 いつの間にか私は平蔵パパと呼ばれるようになっていて、若い女の子も気軽に声をかけてくれる。 「平蔵パパ、平蔵の首輪取れそうだよ」 小学生のミキちゃんが教えてくれた。
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