赤い首輪

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携帯に頻繁に電話を入れると約束をして、私は平蔵の思い出と共に山に登った。 歩き馴れた道に油断していたのだろう…。 私は足を踏み外し…崖下へと落ちてしまったのだ。 目を開けると真っ暗闇の中に私は寝転がっていた。 草等がクッションになり命は助かったようだ。 でも、起き上がれない… 荷物も闇の中どこにあるかわからない。 死を覚悟した。 ああ…妻と平蔵の元へ行ける。 不思議と怖くなかった。 孫の顔は見れないけれど、きっと天国で平蔵に会える。 そしたらもっと頭を撫でて抱きしめよう。 私は目を閉じた。 クーン… 微かに犬の鳴き声がした。 平蔵? まさかそんなわけない…。 クーン…。 また…微かに犬の鳴き声が。 平蔵か? 出ない声で名前を呼ぶ。 パタパタと尻尾を振る音がする。 あ…そうか、迎えに来てくれたんだな。 ありがとう平蔵…。 私はゆっくりと眠りについた。 「お父さん!お父さん!」 晴美の声が耳に届き、目を開けた。 ぼんやりと白い天井が視界に入る。 「お父さん良かった」 涙でぐしゃぐしゃの晴美の顔が視界に飛び込んできた。 「晴美?」 「うん!そうだよ、良かった」 晴美が私の手を握る。 温かい。 そうか…死にそこなったのか。 平蔵が迎えに来てくれたと思ったのに。 私は次の日に山岳救助隊に救助されたと晴美に聞いた。 電話に全く出ない私を心配して探してくれていたようだ。 「お父さん、救助隊の人がお見舞いに来てくれたよ」 晴美と一緒に30代半ばの男性が一緒に病室に来た。 助けてくれた御礼を言おうとすると男性が、 「あの、犬…どうされました?」 と言った。 「犬?」 私と晴美はキョトンとなった。 「探してた時に犬の鳴き声がしたんです。ずっとひたすら泣き叫ぶ声で…それであなたを見つける事が出来たんですよ。気温が急激に下がったから命の危険があったのですが、あなたを見つけた時に犬があなたを温めるように一緒にいたんです」 私はハッとした。 「犬…犬はどこに?」 「やっぱり戻ってませんか…、救助した後振り返ったらいなくなってて」
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