虚構空間

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さて、そろそろ暖かい箱へと向かおうか。 数分の間空を見上げた後、私は取引先へと向かうことにした。仕事をサボるのはいいが、いつまでもこんな寒いところにいては風邪をひいてしまう。 これから向かう会社に思いを向けると、小さな溜め息が漏れる。そう遠くないとはいえ、歩けば十分程度はかかる距離だ。 だがそれはさほど大きな問題ではない。問題は担当者だ。 人の揚げ足を取ることしか考えていないような男。言葉の一つ一つに気を配らなければならず、話すのがとても疲れる。 それもまた、足取りの重さに作用しているのかもしれない。 あーあ、誰か代わってくれないかなぁ。 そう考えてまた溜め息をつく。今度はより深く、意識的なものだ。 その願いが実現することはないだろう。それはわかっている。わかっているからこそ、願ってしまうのだ。 救いを求めるようにまた空を見上げる。その青が少しでも心が安らぐことを望んで。 だが、その行為は安らぎをもたらしはしなかった。 空が、割れた。
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