虚構空間

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先程まで空の一部であったはずの物が地面へと向かっていく。そしてそこに残る穴。淡い青色が広がっていたはずの場所が、不自然な形で色を変えた。 青い空の中に存在する、白い空。当たり前に思っていたものが変容し、吐き気を催す。 異変に気付いた他の人間が騒ぎ出す中、私は声を出すのも忘れて立ち尽くした。 変化は空の穴だけには留まらない。穴が開いた場所、そこから見えていた空が不意に消えた。 その代わりに現れたのは、空とは違う色の白とその中央に浮かぶ黒い円。それが巨大な眼だとわかるまでには少し時間がかかった。 周囲で響く金切り声が耳に刺さる。 ……そうだ。忘れていた。 息が荒くなっていく。体は相変わらず脳からの行動命令を受け付けない。 ……いや、忘れようとしていたのかもしれない。 『奴ら』から逃れるためにつくられたシェルター。虚構の自然を内包したそれも、崩壊を迎えようとしている。 人間の時代は、終わっていた。
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