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「きさら…」
「違うんだ」
「え?」
遮られ、如月は俯いたまま言葉を続けた。
「あれは、ただの八つ当たりっつうか。鬱憤晴らすのにちょうど良かったんだ。…朝比奈を守ったとかそんなんじゃ…」
ない、とか細い声で言い切る。
なんでだろ。
如月の綺麗な声が、
今日はこんな悲しそうな音にばかりなってる。
「でもさ、結果的に俺は助かったから。たとえ如月にそんな気なかったとしても、俺は如月がいて良かったよ」
だからそんなに責めないで。
自分で自分を傷つけないで。
「ほんと、ありがとう」
「…はは」
目を合わせそう言えば、如月は数瞬の沈黙の末、笑った。
え?俺なんか笑わせるようなことした?
力なく笑う如月は腹を抱え顔を伏せた。
あれー?俺もしかして変顔作ったー?
「ほんと、おまえって…」
「へ?」
なに?なんか言った?
すると如月は顔を上げた。
その目はもう泣きそうに歪んではなく、とても穏やかで、優しい光を宿していた。
「似てるんだ」
「は?」
「…朝比奈って、俺の知り合いに似てるんだ」
いきなり何を言いだすんだと不思議に思ったが、如月の目の奥に宿る、悲哀の色を見つけ何も言えなくなった。
「見た目とか、性格なんか全然違うし。朝比奈みたいにお菓子作るとか無理で、強引で、喧嘩っぱやくて…」
…それは、全然似てないんじゃ?
言わないけど。心の中で突っ込んだ。
「けど、本質っつうか、どっか似てるんだ」
「…本質?」
「根本的には一緒っつうか…なんつうんだろ?…人の心の中見透かしてるとこなんか、すげえそっくり。あとお節介なとことか」
「………」
…如月には俺がそう見えるのか。
お節介…ってのは自覚あるけど、見透かすなんて…
周りを傷つけてばかりいる俺に合う言葉じゃないよ。
…けど、如月にとって、その人がすごく大切な人だってことは、わかる。
だって、目が…見たことないくらい優しくなってる。
「如月ってその人が好きなんだ?」
「え、」
「そんな顔してる」
そう言うと自覚がなかったのか顔を赤くしてふいっと脇へ逸らした。
かっわいーなーほんと。
「可愛いー如月」
「っ、だから…!」
「あ、ごめん。男に言われたって嬉しくないよな」
すみません。
頭を下げる俺にため息をついた如月。頭上からいいよ、と諦めたような声が聞こえる。
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