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「ほんとごめんな」 「だからいいって、」 そう言って如月がドアを開ける。 そのまま中に入るかと思ったら何か思い出したのか立ち止まった。 振り返った如月の顔は赤いままだ。 「なに?どうしたの?」 「…さっき、」 さっき? ああそれさっきも言ってたな。さっきもさっきって言って…ってややこしいなこれ。 「俺が…」 泣いたの… ほとんど聞こえないような声量で如月が呟く。 ああ、 さっきって、昼の時か。 俺が如月を起こしに藤井の部屋へ入った時。 「大丈夫、誰にも言わないから」 「………」 「ほらほらそんな顔しない。泣きたい時は誰にでもあります!今度そうなったらまた貸すからさ」 俺の胸で良ければ、と冗談混じりに笑えば如月も笑った。 良かった… もう大丈夫そうだ。 「や、遠慮しとく。藤井が怖いしな」 「へ?なんで藤井?」 「いやなんでもない」 言葉を濁す如月。 …もしかして、 「如月勘違いしてる?」 「は?」 「藤井と俺が出来てるって」 まあこの学校じゃ多いけど。 「俺達そんなんじゃないよ」 「え…」 俺の言葉に如月が疑いの眼差しを向けてくる。ああやっぱ勘違いしてたか。 「絶対ないから、そんなこと」 「…なんで」 「だって藤井好きな子いるし」 そんなに驚くことだったかな? 嘘だと問い詰められ根拠を聞かれたが言わなかった。 まあ、一応人様の色恋ですから? あんま当事者のいない所で語るのは良くないっしょ。 納得しきれないといった様子で部屋に入った如月を思い出す。 秘密って言って押し込んだけど。 昼の時見た写真立て。 あそこに映る素朴で可愛らしい女の子。 それほど好きじゃない打ち上げにまで出て、会いに行った藤井の想い人。 …藤井の好きな子。 前話を聞いてから半年はたつけど、あれから連絡取ったのかな? 半年前もメールのひとつもやれないと言ってたっけ。 意外と臆病なんだなと言えば拗ねて部屋を追い出されたのを思い出した。 …今年の夏は帰るかな? 去年の夏は帰らないと言った俺に付き合って寮に残ってくれた。 けど、今年はあの子に会いに行けばいい。 きっと彼女も待ってるよ。 自分のことじゃないのに何故か胸が切なくなった。 …つうか気持ち悪くなってきたな。 頭痛いし。 「…っ、へっ…へえ…ぶえっくし!」 …くしゃみも出るし。
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