とある三人の内心事情

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朝比奈の汗ばんだ手が俺の手を繋ぎ止める。 無言で俺でなく、足元にいたそいつを睨みつけていた。 「如月泣かすな」 泣いてなんかいないのに。 ……… むしろ怒りで頭はいっぱいなのに。 …なんでおまえは… ただ少し、心臓辺りが痛むだけで。 なんでおまえはそうやって俺の中を、俺より早く気づくんだ? 『おまえは、俺が守るから』 …聡真… もう居ない、あいつと朝比奈が被って見える。 「そんな目で見んとってや、森。妬いてまうやんか」 苦笑しながら、悲しそうに朝比奈を見る男。 けれど朝比奈は表情を崩すことなく男を睨み続けている。 やがて男はわざとらしくため息をついて両手を上げた。 「わーかった!降参や。まったく森にはかなわんわ。如月、」 「はっ?」 突然名前を呼ばれ声が裏返った。 しかし相手は気にすることなく笑顔を浮かべたまま手を差し出した。 胡散臭い笑顔で。 「改めて自己紹介といこか。俺は河島。河島捺や。よろしゅうな、転校生の"如月琉"?」 「………」 こいつが何を知ってるのかはわからない。 けれど、ひとつ確かなのは、朝比奈を守ろうとしてるってこと。 降り掛かる火の粉を払おうとしてるってこと。 …俺が出来なかったことをやっているんだ。 俺は空いていた左手を差し出し握手を交わした。 右手は朝比奈に掴まれていたのでなんとも奇妙な格好だ。 触れる程度にしたそれはすぐ離されそいつは朝比奈に向き直る。 俺に向けるのとはまったく違う笑顔で。 「どや?これでええ?」 朝比奈に伺いをたてる。 俺も朝比奈を見ると笑顔を浮かべ再び寝入るところだった。 足をもとの布団に戻し、俺の手は…掴んだまま。 不意に河島と名乗ったそいつが立ち上がった。 こちらに近づき口を耳に寄せてくる。 なんだと警戒するも頭を捕まれ後ろに引くことも出来ない。 「良かったなあ、守ってくれる奴がおって」
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