73/88
前へ
/1308ページ
次へ
自分の残念な頭に辟易する。 どうすればもっと上手く言えるんだろう? 「森くんは人の気持ちに敏感なんですね」 「や、そんなことは…」 むしろ鈍いと思います。 だって、何時だって気づくのは皆が傷ついた後だ。 「気づいてるのだろう?」 理事長は笑顔のまま、けれど微かにその目を悲しげに光らせてこちらを見た。 「………」 とぼけようと思えばいくらだって出来た。 けど、それをしても理事長は気づくだろう。 気づいてなお追及してくる。 だからといって、俺から肯定するなんて出来ない。 顔が情けないことになってるってわかる。 きっと二人以上に歪んでる。 眉にシワ寄せて、唇を噛みしめて。 けど、何を言っていいかわからないんだよ… 「君の考えた通りだ」 黙ってしまった俺に理事長が告げる。 「聡真はもう居ない」 低い、重い声が告げる。 「彼は死んだんだ」 「………」 一番聞きたくなかった答え。 合っててほしくなかった予想。 「…事故ですか?それとも病気?」 自分から出た声はいつになく擦れてる。 聞き取りづらいそれをなんなく受け止め理事長は続けた。 「殺されたんだよ」 …は? 「いや、正確には殺されるよう仕向けられた、といったところか。奴は自らそれを選んだ」 ……… それって… 殺されることを、選んだってこと? 「っ、」 嘘だ! だって雅文さんや、如月がいるのに! 理事長だって! こんなに想われてるのに! そんな馬鹿なことするわけない! そんな、考え無しなことするわけない! 「~っ…」 …そう叫びたかった。 だって、おかしいよ。 殺されるってなに? なんでそんなことにならなきゃいけないんだ? 自分から選んだって… 残される人達は? みんなのことは何も考えなかったのかよ? 言いたい。 言いたい。 けど言えない。 言ったって無意味だから。 言って傷つくのは残された人だから。 みんなが一番わかってる。 みんなが一番言いたいんだ。きっと。 どうして?って… 当事者でもない、ましてや何の接点もない俺が言うべきじゃない。 けど… 悔しい。 何も出来ない自分が、 本気で、情けなくなる。
/1308ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8173人が本棚に入れています
本棚に追加