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上げれなくて、 二人の顔が見れなくて、 ただ拳を作って、痛いほど握り締め俯いていた。 そんな俺の頭に何かが乗せられる。 「あなたが気に病むことじゃありません」 雅文さんの優しい声が耳に入る。 「私はもう平気ですから」 ……… 「嘘だ」 「…嘘じゃないですよ」 「っ!」 顔を上げれば、笑顔なのに、目の奥は笑ってなかった。 如月と同じ、 笑顔なのに、傷ついた瞳。 …全然平気じゃないじゃんか… 頭に置かれてた手を取り、そのまま両手で包んだ。 シワのある手。 骨張った、細長い指。 傷一つない肌。 「…っ、」 ひどく脆く見えた。 如月の手を思い出す。 小さくて、いまにも消えそうなほど儚く、手の中を冷やしていく。 雅文さんの手は表面は暖かいのに、その中は、芯の方は冷えてるような気がした。 この手を暖められるのは俺じゃない。 たった一人、 …なんで、おまえがやってやんないんだよ…! 「…俺に、」 雅文さんの手を握ったまま問い掛ける。 「出来ることありますか?」 暖められないなら、 傷を癒せないなら、 せめて笑ってもらえるように、 一瞬でも、幸せだと感じてもらえるように、 「俺は何が出来ますか?」    精一杯、頑張るから。 俺に出来ることなら、なんだってするから…
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