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如月と俺の間に風が吹き抜ける。
揺れる黒髪が如月の横顔を隠して、見せて、また隠して、
その表情が何を思ってるか全然わからない。
ああ…
風が耳でうるさく騒ぐ。
頭ん中おかしくなったかな?
頭の中は重い塊で埋まったように重く、吹きつける風の一切を通さない。
何も考えらんない。
ただ目の前に映る、風が樹や、草や、花や服や髪を揺らす、その風景を眺めていた。
数分か、数十秒か、
わからないけど如月は困ったように笑い口を開いた。
「それは聞かなかったんだ?」
「………」
「悪いけど、言えない。けど俺のせいってのは本当」
「…なんで?」
なんで、そう思うの?
「…聡真は責任を果たす為に死んだんだ。俺が巻き込んだから、そのせいで責任を負わされた。だから俺のせい」
なにそれ。
「死ぬことが責任を果たすことなの?」
「………」
「それ以外になかったの?」
「俺と、関わることをやめれば、俺から離れればそんなことにはならなかったかもしれない。けどあいつはそれを選ばなかった。俺の為を想って、そうしたんだ」
如月の為?
「違う」
如月の為?
死ぬことが如月の為になると、本気で思ったんだろうか?
如月の為じゃない。
そんなの、
「如月の為なんかじゃない」
「朝比奈?」
如月の顔がこちらに向いた。
不思議そうな、
その奥に悲しそうな色を宿して。
「そいつは如月のこと全然考えてない」
俺の言葉にわけがわからないと顔を歪める如月。
微妙に混じりだした怒りの気も無視し俺は続けた。
「本当に如月のこと考えてたら、絶対そんな選択出来ないはずだ」
自分が死んだ後のこと、少しも考えなかったなら、それは考えたことにならない。
もし考えてたなら、絶対そんなこと思わないはずだ。
「責任を取るって、」
なんだよその責任て。
そんなに大事なの?
「そんなの…」
如月や雅文さんを泣かせるより、
理事長を悩ませるより、
生徒会や風紀のみんなを苦しめるより、
優先しなきゃいけないの?
「そんなの理由にならない」
自分がどれだけ慕われてたかもわからなかったのか?
「そんなの、如月や雅文さんを泣かせていい理由にはならない!!」
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