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部屋の前に立ち思い切り息を吸い込んだ。
頭の中に浮かぶのは、おそらく開けた時に見える光景。
大きく吐き出し、しばらく間を空けて俺はカードキーをスライドさせた。
いつもと同じ電子音が妙に高く耳に障る。
開ければ、想像した通りの光景だった。
共用スペースの、俺から見て左、
藤井の部屋に近い、いつもの指定席にいつもの人影が座っていた。
「…ただいま」
「………」
話し掛けてもだんまりを決め込む藤井。
それも予想通りすぎてなんだかよくわからない。胸の辺りが、何かセメントみたいな重いもので埋まってく。
いつもなら右のソファーに腰を降ろすところ。
けど俺はそのまま立ち止まることなく自分の部屋に向かった。
「待てよ」
やはりというか、当然藤井によってそれは遮られた。
「…なに?」
自分はいまどんな声を出してるんだろう?
自分はいまどんな顔をしてるんだろう?
わからない。
藤井の顔も背を向けてるからわからない。
けど、きっと不機嫌な顔をしてるんだろう。
聞こえる声はキレてる時に近いものだった。
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