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さっきまで聞こえていたものより低い声が聞こえた。 俺はナツの顔を見ようと視線を上げた。 しかしその前にナツは俺から離れ、背を向けたまま歩き出した。 …手は掴まれたまま。 たいした距離は歩かなかった。 すぐ前の空き教室に入り俺もそれに従う。 ドアがガチャリと音をたてて閉まる。 中は机と椅子、黒板の影がぼんやりと浮かんでいた。 カーテンは厚いのか外の光が入らない。 薄暗い中、俺はナツを見た。 よく見えないけど、まだナツはこっちを向いてない気がする。 「さっき何考えてたん?」 さっきっていつのことだろう。 そう考えてるとナツは聞く前に答えてくれた。 「保険医がいなくなる前、あいつのこと考えてたやろ?」 低い声。 こんな声聞いたことない。 ナツの言った通りだったから俺は何も言わず黙っていた。 ナツも返事を待ってなかったらしい。そのまま話し続ける。 「当てたろか?」 ナツはまだこっちを見ない。 「初めは本気で冗談やったんやろな。フリやったしその後の話に持ってかれてあいつもすっかりその気無くしとったのに、あない挑発して…」 握られてる腕がキツくなっていく。 痛くて、耐える為に歯を噛み締めた。 「…で、」 腕を掴む力が向きを変える。 ナツはこちらを向いた。 こちらを向いて、掴んでいた右腕は壁に押しつける。 左は掴まれこそしてないが動けないよう通せんぼされ追い詰められる。 こっちを見たのに、表情が見えない。 ナツが何を考えてるかわからない。 「あいつをどうしよか思たんやろ?」 無言で返す俺の目は、ナツには見えてるんだろうか? 「あいつがどないしたら安心するか考えとったんやろ」 けど、見えなくてもわかる。 いや、わかった。 「やから抵抗もせんかったんか」 ナツが怒ってるっていうのは。
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