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ドアの前に立ち深く息を吐く。
箱を握る手は震えていた。
はは、汗かいてるし。
自分がすごい緊張してるのを確認して俺はドアの横にあるチャイムを押した。
防音なだけあって中の音は聞こえない。
そばに来たかもわからない。
けどドアにはのぞき穴が付いてるから、もし見てたら俺が来たのはわかっただろう。
しばらく待っていると鍵の開く音と共にゆっくりドアが下がっていく。
「…どうしたん?こんな時間に」
時刻は7時過ぎ。
いままで来たこともない時間にナツを見るのは変な感じがした。
「ちょっと、話がしたくて」
「話なら電話でも出来るやん」
「それじゃ意味ないよ」
「………」
「目を見て、話したかったから」
ナツを見るとこちらを無表情で見つめていた。
その目があまりに冷たくて、思わず気圧されそうになる。
けど、ここで逃げるわけにはいかない。
だって、今日初めてナツが目を合わせてくれたから。
「…話って?」
「その、謝りたくて…」
「そんなんええよ。それだけやったら俺戻るわ…」
「違う!」
はっきり否定の言葉を言うとナツは口を閉ざした。
目はさっきと変わらない。
「俺、ナツの気持ち考えてなかった」
「………」
「ナツは、こんな俺をなんでかわかんないけど、…好きで、いてくれて。けど、俺は、キスとか、あれじゃ、誰でもいいのかって、…好きな奴じゃなくてもするのかって聞かれて、そんなことないって言えるのに、したことは、すげえ、矛盾してて。…だから、俺、約束したい」
「…約束?」
顔色ひとつ変えなかったナツがぴくりと眉を動かした。
けれどそれもすぐ戻る。
俺は黙って待つナツへ口を開いた。
約束の、
誓いを守るための、
証人になってもらう為に。
「俺、好きな奴としかしない」
「………」
「好きな奴にしか、させないし、もしそうじゃない奴にやられそうになったら、自分の舌噛んででも、やらせない」
馬鹿なことって思うかな?
ガキみたいって笑うかな?
けど、君を傷つけたから、
もう君を同じ理由で傷つけたくないから、
「約束する」
ちっぽけでしょうもない、
俺の全部をかけて。
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