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「また、『脱兎』か……」 警察署・刑事課の自席に腰をかけ、コーヒー片手に新聞を読みながら、僕はその名を呟いた。 脱兎……ここ最近よく耳にする名前だ。特にこんな職場に勤務していたら、嫌でも耳にしてしまう。 今、日本中がこの脱兎に脅え、震えあがっているのだ。 当然……だよな。こんなわけわからん奴が、“連続殺人犯”なんて…… 「おい青川!ボサッとしてねぇで例の『脱兎』の捜査会議行くぞ!」 「あ、はい」 先輩の怒号が耳をつんざき、僕はしぶしぶコーヒーをデスクに置き席を立つ。 『脱兎』のおかげで忙しくなったもんだ。こんなに働いても給料には目を見張るほどの変化はなく、ほとほと嫌になる。 「マリモ先輩、今度の事件……これで、何人目ですか?」 僕は会議に持っていく書類をテキパキとまとめている先輩に、あきれたように聞いた。 「マリモって呼ぶな。俺の名前は毬香森 大輔(まりかもり だいすけ)だ。いい加減覚えろ」 僕に背を向けたまま、先輩は愚痴をこぼした。といってもほんとに怒っているわけではなく、先輩をなめている僕と先輩の単なるスキンシップだったりする。 「いいじゃないですか。つうか毬香森っていう名前を覚えてるからマリモって略してるんですよ」 「略すならもっとマシな名前にしろ」
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