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マクスウェルの魔物という話がある。
分子の速度を見分け、二つの部屋AとBに仕分けできる魔物がいたとしよう(あるいは現実、特に政治にいるかもしれない、人間だが)
しばらくすると、何の力を与えずともAとBに分子の速度平均に差がでる。
分子の速度平均は、すなわち空気なら「気温」だ。
高い温度の空気から熱エネルギーさえ取り出せれば、すなわち大気から無尽蔵にエネルギーを得られる、第二種永久機関が作れる。
この話、よくよく考えればかなり奇妙な話だ。
例えば熱いやかんを冷たい鉄板に置けば、熱平衡が生じ、やかんは冷め鉄板は熱くなる。
しかし、逆はどうか?
温いやかんを温い鉄板に置いたところで、双方温いままで、やかんは熱くならず、鉄板は冷たくならない。
エントロピー増大則、あるいは熱力学第二法則。
マクスウェルの無双な夢想は、「人の夢こそ儚く散りぬ」、脆くも崩れ去った。
このような話は幾らでもある。
結んだ紐と解けた紐。
綺麗な皿と割れた皿。
盆の上の水と覆水。
砂の城と砂。
原因と結果。
爆弾と残骸。
生者と亡者。
いわば
「壊れたものは、元には戻せない」。
「死んだ人間は生き返れない」。
これは、そんな熱力学第二法則を、運命的に奇跡的に狂気的に正気的に偶発的に確定的に無視した男。
そんな男の、失敗談。
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