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家光は、私を気に入っているみたいだった。
何の感情も表さず、ただ機械的に、人を殺し続ける、その姿を、家光は『美しい』と言った。
私の武器が古くなったときは、『君には特別に、江戸で一番の腕前といわれる研師が研いだ、鎖鎌を買ってやろう。』
そういってこの鎖鎌をもらったのだ。
私がなぜ、主と呼ぶべき人物を、名前でよんでいるのかというと、憎いから。
ただ、単純に憎いのだ。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
木の板だけで造られた、家があった。
そこには母と子が二人で暮らしていた。
数年前に父親は出ていき、そのまま行方知らずとなった。
子が、山へ山菜とりに出掛けたとき、母は一人で家事をしていた。
そこへ見知らぬ男たちが4~5人、入ってきた。
徳川家光の家来だった。
『ここに徹朗はいないか。』父の名を叫び、暴れ狂う。
『あの人なら数年前に出ていきました。』
母はそう答えた。
すると男たちは、『あいつがいないなら、奥さんにきてもらおうか。』
そういって連れていこうとした。
『嫌です!やめてください!』必死で抵抗した母は、胸を一突きされた。
『忍―……。』
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
『母さん!』
自分の声で、目が覚めた。
久しぶりにあの日の夢をみた。
額にはべっとりと髪の毛が張り付いている。
『鬱陶しい。』
そうつぶやいて、私は立ち上がり、風呂に向かった。
高いところで一つに結っていた髪の毛を、バッサリと切り落とし、家光の部屋へ。
私の母は、家光に殺された。
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