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どれくらい歩いただろう。
杳とした森の中、獣道に映る月の顔だけを頼りに、群生する草花に半ば足をとられながらひたすら足を動かす。
こうして抜け参りするのも今日が初めてではないのだが、行き慣れた道がこうも億劫なのは、ここ数日、ろくな食事を摂っていないからなのだろう。
しかし、もはや憔悴した体は空腹すら感じない。
それでもこの体に残された僅かな原動力を使って目的地を目指すのは、自分の死すら迎える場所がないからだった。
時は暗黒時代。
長期にわたる不況の影響はついに、唯一の肉親である母親を亡くした鞘奉(ショウブ)の身を寄せる母方の妹の一家にまで及んだ。
元より貧窮な生活を強いられる農民がとる、家計を削減するたの最終手段としては、最悪、一家から一人の里離れを余儀なくされる。そして鞘奉も、その措置を前提にあっさり除け者とされた者の一人だった。
その理由が単純に家計が苦しくなったからだけではないことくらい、当の本人である鞘奉にもわかっていた。
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