第一章

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夜闇が白昼の如く変貌し、そこだけ神聖な何かが降り立ったかのような光景だった。 すると、とりわけ明るい無数の光が一点に集まり、次第に何かの容を象っていくのが見てとれた。 細身の身体に、太く長い尾の揺曳が美しい―狐だ。 白光の毛皮を身に纏った耀映とした白狐が甲斐甲斐しく鞘奉の眼前に降り立ち、きりりと研ぎ澄まされた銀の瞳が、じっと鞘奉の顔を見つめた。 鞘奉も不思議な気持ちで、黙って見つめ返す。 長く見つめてしまえば吸い込まれてしまうのではないかと思えるくらい透き通った瞳は、どこか憐憫の色に揺らめいているようだった。 吊目がかった瞳は妖異な雰囲気を醸し出しているというのに、眼差しだけはまるで、慈眼そのものだ。 ぼんやりと白狐に目をやる鞘奉は、その時になって、さっきとは違った眠気がこの身を包みつつあることに気づく。 春意に転た寝を誘われた際に感じるような安らかな気持ちにも似た言いようもない安心感が、今度こそ鞘奉を眠りへつくことを良しとした。 「……これも全て、俺に力が無いが故の報いか―」 寝入る間際、消え入るような声がそう言った気がした。
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