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失恋したら女の子は髪を切るでしょう、って短くなってしまって―――瞼にかかるくらいには長かった―――きみの前髪をつまんだら、イニスはやっぱり風船みたいに頬を膨らませた。 そういう意味じゃない!、切りたかったから切っただけ!なんて。 よく言う、鈍感なエルの気持ちを振り向かせるための最後の画策だったんだろう?、ちょっとだけでも傷つけられたらいい、って。 きみは変わらずに彼を呼ぶ代わりに、そういうところでちいさく抵抗をする。 気遣いながら復讐をするなんて、まったくきみらしくなくて、こういうきみに仕立てる過去の恋が憎らしく感じた。 きみに変化を与えるのは、俺だけに渡された権利だ、だめだよ、イニス、断りもなく変わろうとして。 「イニス、起きて、起きてってば……」 両方の手のひらをまるく開いて、きみの頬を包む。  
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