封印

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◆◆ 中学受験を経て、現在は高校3年の秋。 小中高大とエスカレーター式なので、大学進学は決まっている。 しかし将来なんの職業に就きたいかと訊かれると、途端に解らなくなるのだった。 それほど焦がれる職業もないうえに、叶えたい夢も今の所は皆無。 友人には『ものに対する関心が薄い』と軽口を敲かれたくらいなので、相当なのだろう。 つまり簡素に言ってしまえば、自分という人間は何に対しても無関心なのだ。 適当に働けて生活に困らないだけの金を稼げれば問題ないと思ってすらいる自分は、なにが間違っているのだろうか…。 釈然としない。判然としない靄を抱えながら物思いに耽っていた僕だったが、ふと小糠雨に煙る表庭の隅に佇む建物の存在に気が付く。 表庭の古井戸の脇に、奇妙な小屋があることに気が付いたのは『何気ない偶然』だった。 見た感じ、納屋より少し大きいくらいという感じだろうか? 夕闇と雨に紛れてしまえば分からない、まるで人目から隠すような立地に建つ小屋がなぜか気になった修一は、ちょうど夕飯時を知らせにきた祖母に小屋の所以をそれとなく訊ねてみることにした。 ◆◆ 「修一。お夕飯できたからおいで」 北向きのフリースペースで寛いでいた修一を見つけた祖母が、ゆっくりとした足どりで近づいてくる。 「あ、ねえバアちゃん」 「なんだい、献立かい? 今日はほうれん草の煮浸しと…」 「いや違くて。…あのさ、あの表庭の隅にある建物のこと、なにか知ってる?」 「ええ? なんだって?」 「ほら、アレだよ」 聞いてもいない夕飯の献立を捲したてる祖母を遮って、修一は北に面した窓を指差す。 指さした先には、夕闇に呑まれそうな雨の中にかろうじて屋根が霞んで見えている。 「ああアレかい。婆ちゃんが若い頃は単に農具なんかを収納する納屋だったけど、いつの間にか誰かが神様を祀りだしたんだ。でも、絶対に近づくんじゃないよ、ありゃあタタリ神だ」 不信心な修一は「非科学的な」と内心で毒づきながらも、不明瞭な死を匂わせる空気に心惹かれた。 「タタリ神? なにそれ」 もっとその話を詳しく聞きたくて、死に焦がれている修一は、気力を奮って食い下がった。 「近づく者すべてに災いがあるっていう、よくない謂れがあってね。まあ単なる昔話さぁ…母さんから聞いたことないかい?」 あれとは相性が悪いことを知っている癖に、わざわざ言わなくてもいいだろうに。あの女を生んだ祖母も、たびたび性格の悪さが露見する。 「ないよ、多分…」 こんな所であの女の話が出るとは思わず、修一は苛立ちも顕に応えた。 母親とは、ここ数年まともに(な)会話をしたことがない。 遭えば小言か厭味しか言わない嫌な女だから、なるべく遭遇しないよう避けていたのだ。 「そうかい。でもまあ、そんなおっかない話はもう終わりにしましょ。ごはん冷めちゃうから食べようね」 「…ちゃんと歩くから押さないでよ」 少しでも和ませようとしたのだろうが、握られた肩が痛い。 振り払うこともできるが家に置いてもらっている手前、強く出られない修一はイマイチ意思疎通できない祖母が母親同様に好きではなかった。 表庭の祠に祀られているタタリ神のことが知りたくてならず、夕食もそこそこに部屋に引き籠ると修一は壁にかかるカレンダーに赤ペンで丸く印をつける。 10月19日、土曜日。祖父母が老人会の旅行で不在になる、タタリ神の祠に関わるには絶好の日だ。 若くして死ぬ憧れを懐きながら、修一は鞄に懐中電灯とタオルを詰めた。 ◆◆
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