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泣きはらした目は、潮風に当たり、シバシバする。
さっきの出来事が、夢なんかじゃなかったことを教えてくれている。
『……婚約者じゃなく……一人の男として付き合わないか?』
私を恋人の兄から引き離し、この男は確かにそう宣った。
……今の今、兄と駆け落ちをして宿泊していた旅館に乗り込んできた男。
冷徹なイメージのあった男からは、かけ離れた行動に驚きもしたが、ホッと安堵したのも確かだった。
今は、そんな自分が許せない。
片山 海翔(カタヤマ カイト)
私の好きになった人は、生き別れた、血のつながった兄だった。
好きで……好きで……好きで仕方なかったのに、その事実が分かったら、怖くて仕方なかった。
彼に触れられることが、嬉しくて仕方なかったはずなのに、頭の隅で、血のつながった兄と一線を越えることに、不安と常識が邪魔をして……それでも闇に足を取られるように彼を受け入れる覚悟を決めた時、この男が冷たい侮蔑を込めた瞳で、私を連れ戻しにきた。
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