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この葦原町は、S県東部に位置する小さな町である。
町というだけあって学校やスーパーなど、ある程度の施設はあるようだが、基本的に山に囲まれた、とても都会とは呼べないような場所だ。
葦原駅にしても、わざわざ町の中心地から15分ほど歩かなくてはならない山の中に作られており、町まで行くのには山を下る必要がある。
山中の為だろうか、もうすぐ初夏に差し掛かろうとする季節であるにも関わらず妙に肌寒い。
辺りを見回したが、黒々とした山と暗い陰があるのみで祖父の車らしきものは見当たらなかった。
入り口の傍にある自動販売機の光が、赤いベンチをうっすらと照らしている。
飛鳥は腕時計を見た。
もうすぐ22時。
飛鳥は、肩に掛けた荷物を持ち直すとすぐ近くにあるベンチに腰を掛けた。
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