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七夜は、怪奇話にかなり詳しく、翼は、もっぱら聞き役だったが、彼の語り方が、リアリティがあり、一層と雰囲気を感じたので、あっと言う間に、零時が近づく。
「いよいよだな」
翼が腕時計を見ながら、言った。さっきまでの明るい表情は無く、緊張した面持ちをしていた。
隣にいる七夜といえば、翼とは対照的に楽しそうである。
「早く、行こうよ」
「ああ…」
急かす七夜に返事をし、座っていた階段から立ち上がり、件のトイレに向かう。
「ねぇ、トイレの鏡の話を覚えている?」
隣を歩く七夜がふいに尋ねてきた。翼は、ああ、と返すとその内容を口にした。
「零時に鏡の前に立つと、鏡の中の自分に鏡の世界に連れていかれて、戻れなくなるんだろ?」
「うん。それで、代わりに鏡に映った自分が現実世界に出ていく……入れ替わりだね」
「入れ替わっても、分かんねぇな。同じなんだからよ」
やや恐怖が薄れたのか、翼が茶化すような口調で言うと、七夜は、違うよと笑みを浮かべながら言った。
懐中電灯が照らす灯りが、一瞬だけ暗くなる。
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