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思い出すことはできないが、何か重要なことがこの場所であったらしい。もちろん何の確信もないし、何の根拠もないのだけれど、私はこの場所に見覚えがあった。
何か何かと頭を悩ませていると、どこからかぴゅんっという音が聞こえた。
しかし周りには桜の木以外はなにもない。が確かに聞こえた。
その時、突然、風が舞い上がるように吹いた。
「うわっ……」
その風に煽られたのか、ヒラヒラと私の目の前を何かがちらついた。
花びら--?それはたくさん桜の花びらだった。どうやら今の風にあの桜の木も吹かれたらしい。
よくその桜の花びらを見ると、花びらは木を取り囲むようにして回り回っている。
すると、その桜の花びらは私の周りをも取り巻いた。
不思議な風で乱れる髪を手で押さえつつ、私は思わず目を瞑った。
「うっ……」
風がようやくおさまったので私が目を開けると、あの桜の木の下小さな女の子と、私と同じ年頃の男の子がいた。仲良く遊んでいる。
「あっ」
思わず声が出た。あの女の子、私だ。まだ小さい時の私であったのだ。そしてあの男の子。それは私の……今はもういなくなってしまった、たった一人の兄であった。
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