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嫌な予感がする。というか、嫌なモノが近付いてくる。
僕はいわゆる見える人間だ。幽霊だとかそういう類いのものを見たり感じたりしてしまう。
あまりいい能力ではないが、たまにやってくる身の危険にはかなり敏感になる。
僕が身構えていると、玄関のチャイムと同時に僕を呼ぶ声がした。
「いますかー?」
どうやら有希がやってきたらしい。僕は気を抜くことなくドアを開けた。
瞬間。とてつもなく重い、冷たい空気が僕の身体を駆け抜けていった。
ヤバイ。こいつ、何か危ないものを持ってきている。
「どうしたんですか?」
「何を持ってきた」
「あ、やっぱり分かりました? てことは相当ヤバイんでしょうか、これ」
「とりあえず入れ。中で聞く」
有希を中にあげ、飲み物を物色しながら、僕は吹き出る汗を拭っていた。部屋の中は冷房をきかせているはずなのに。
飲み物を出してから僕は煙草に火をつける。彼女はにこにこと笑いながらそれを取り出した。
「今日持ってきたのはこれです」
日本人形。おかっぱ頭に着物を着た古い人形。所々色褪せているのを見ると、かなりの年代物なのだろう。
それがテーブルに置かれた瞬間、僕は猛烈な吐き気に襲われた。
「おい、なんだよこれ。ヤバイとかそんなレベルじゃない」
「骨董品屋で見つけたんです。なんでも、持ち主を呪い殺す危険な代物みたいですよ」
僕はできる限りそれを視界に入れないよう気を付けながら有希の話を聞く。
この人形の持ち主は誰もが不可解な死を遂げ、同時に行方が分からなくなる。するとどこかの家にいつの間にか置いてあるというのだ。
持っているだけで死ぬというのに、いつ自分の元に来るかが分からないあたり、実に彼女の興味を惹きそうな代物だ。そしてこういうものが僕の所にやって来たということは、もはや避けられないということらしい。
「で、どうしろと」
「もらってくれません?」
「何でだよ。呪いが本当か確かめるなら自分でやれよ」
「だってもし本当なら私は抵抗出来ずに死んじゃうじゃないですか」
僕だって見えるだけで解決法を知っている訳じゃない。いわば危険を知り、回避しているだけだ。
「身に降りかかる危険さえ見えなければ何も出来ないです。だから、もらってください」
意味が分からない。要は体よく押し付けようってことなんだろう。
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