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「雨、強いですね」
外に目を向けていた有希がふと漏らした言葉に、僕も窓越しに空を仰ぐ。断続的に車を打つ雨の音は強くなっていくばかりでやむ気配はない。
BGM代わりにつけていたラジオからも、今夜から明日の夜にかけて雨が続くだろうと言っていた。
「ま、気長に待つしかないよ。その噂だって本当かどうか分からないんだから」
人通りの少ない車道の端に車を停め、僕たちはむっつりと雨を眺めていた。
雨の夜、無人のタクシーが通るという噂が流れ出したのはここ最近の話だった。あまり馴染みのないインターネットの掲示板から聞いた話だというので、信憑性のないものだったが、その場所を聞いた時、僕はデジャビュを感じた。
普段オカルトとは無縁の生活を送っているにも関わらず、だ。
「そもそも、これだけ誰もいない場所なんだから通ればすぐ分かるよ」
ふと辺りを見回すと、過去の記憶が少しずつ蘇っていくのを感じる。
そう言えば、あの頃も似たような話が出回っていた。
そしてそれを見に行こうと連れ出す誰か。
僕の隣でいつも怖い話を臨場感たっぷりに語ってはくすくすと笑っていた。
しかし、肝心の顔だけは霧がかっているようにぽっかりと空いてしまっている。果たしてどんな人だったか。
思い出そうとしてしばらく煙草に火をつけぷかぷかとふかしていたが、すぐに有希の声で現実に引き戻される。
「来ました」
その一声で再び外に目をやる。
タクシーが走ってきた。視界が悪いというのにライトを点けていない。確実に人ならざるものだ。
タクシーが僕たちの乗る車を横切っていく。無人だという話だが、運転手と後部座席に人が座っていた。
その中の一人、若い女性を見た瞬間だった。どこか懐かしい、見覚えのある顔がフラッシュバックする。
そうだ、思い出した。
いつも僕の隣にいた誰かの顔が鮮明に浮かんできたが、一瞬で消えうせる。
有希が叫び声をあげた。
何事かと彼女を振り返り、その顔が恐怖に歪んでいるのを見て僕はすぐに車を走らせる。
タクシーは僕たちの近くに停車し、ドアを開け、そこから誰かが出ていったがまた黒いシルエットに変わっていた。
タクシーとは逆の方向にしばらく走ってから、僕は有希にどうしたのかと尋ねた。
「あの、見ませんでしたか?」
「何を?」
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