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その学校には一つだけ開かない扉がある。その奥に部屋があるのか、それとも階段があるのかすら分からない扉。
生徒たちの間でまことしやかに囁かれている話では、その扉の向こうの部屋には昔そこで自殺した生徒がいて、今でも夜になるとその生徒がぶら下がっている――という話だが、真実は未だに分からないままらしい。
誰かが教師に開かずの扉の鍵はどこにあるのかと聞いてみたが、何年も前、少なくともその教師が勤務した当初から行方不明のようだった。
いつだったか、こんな噂があがった。どこかの部が夜遅くまで残っていると、どこからか苦しそうな声が聞こえてきた。どこから聞こえるのだろうと不気味に思いながらも声を追っていくと、開かずの扉の前にたどり着いた。扉に耳を当てると、やはり声が聞こえる。
怖くなってその場から立ち去ろうとすると、不意に開かずの扉のノブががちゃりと音を立てた。
そこには生徒以外誰もいない。中から誰かが扉を開けようとしている。
生徒は無我夢中で逃げ出した。
後日その話の真偽を確かめようと何人かが肝試しをしたそうだが、それ以降この話はタブーとされ、誰もが口を固く閉ざしている――。
「という話です。どうですか? 気になりません?」
目を爛々と輝かせて有希が顔を近づけてくる。正直そんな話をされた方が余計に気を削がれる。
「全然、全く気にならない。それよりも君の頭の中の方が気になる」
「どういう意味ですかそれ。私に惚れちゃったってことですか?」
どうやったらそういう解釈ができるのだろう。
そういうところがだよ、とはあえて言わず、僕は煙草に火をつけた。
「とにかく僕は行かない。いつも言ってるけど、僕は君らみたいにやれ肝試しだ、やれ怪談だと騒ぐ元気も気力もないの。毎日どうやったら楽に過ごせるのか、それだけだよ」
「えー、せっかく先生にも許可をいただいたんですよ? これで行きませんなんて言えないですよ」
「そもそもその学校って君んとこだろ? だったら女子校じゃん。僕みたいな明らかに不審者が行ったら通報されかねないじゃん」
「それも含めてばっちりです。開かずの扉の件を解決してくれる凄腕霊能力者を連れていきますと言いました」
なんだそれは。僕はいつから凄腕霊能力者になったんだろう。そもそも霊能力者ですらない。
「勝手に話を進めるなよな……。僕はただ見えるってだけじゃん」
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