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「ものは言い様ですよ。ほら、約束の時間まであまりないですから行きましょう! ご飯ぐらいなら奢りますよ」
結局こうなるのか。有希からこんな話が来る場合は有無を言わさず心霊スポット巡りに連れていかれるんだからたまったもんじゃない。
僕はげんなりとしながら財布と携帯、鍵の束を掴むとゆっくりとたちあがるのだった。
僕はいわゆる見える人だ。それも人と区別がつかないぐらいにはっきりと見えてしまう。
いつから見えるようになったのかは覚えていないが、物心ついた頃にはすでに両親を怖がらせていたらしいのでかなり小さい頃からなのだろう。
そんなわけだから、僕はオカルトな場所というのが苦手で、行けば大抵ろくでもない目に合う。
訳のわからない霊に憑かれたり、脅かされるならまだしも、命を狙われたりするのだからたまったものではない。
だが、有希と出会って以来僕のささやかな日常というのは崩れつつあった。
この少女、何がどうなったのか分からないが、重度のオカルト好きで、そういう話をどこからか仕入れてきては僕を連れ出すとんでもない娘さんだ。
断れば一人でも行ってしまうのだから、余計に質が悪い。
助手席に座る彼女の怪談話をBGMに車で走ること十数分、ようやく目的の学校に到着する。
夜の学校とは不気味なもので、入り込めば二度と戻ってこれないような深い闇を纏っている。
少々弱気になっていると、有希が携帯で何事か話をしたあとこちらに向き直った。
「先生が今から来るそうです。ここで待っていてください」
まあ当然か。素性が分からない男を神聖な女子校に入れるのだから、勝手に歩き回られないよう監視するのは当たり前だ。
しかし、これで僕は完全に凄腕霊能力者を演じなければならなくなってしまった。絶対に晩飯は奢らせよう。
そんなことを考えていると、若い女性が校内から歩いてきた。小柄で童顔な気さくそうな先生だ。
軽い挨拶もそこそこに、問題の開かずの扉に案内される。
「どうですか?」
有希が小声で尋ねてくるが、僕は軽く首をひねった。
何も感じないのだ。本来こういう曰く付きの場所にあるべきものを感じない。心霊スポットでも出ると言われる場所には程度の差はあれ多少なりとも何かを感じるはずなのに、この開かずの扉にはそういう嫌なものどころか、その存在さえ視覚でしか確認できない。
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