第一夜「開かずの扉」

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「おかしいな、これは」  まるで意図的に隠されているような、そんな感じだ。 「すいませんが、この扉で最近何かありましたか?」  先生は特に何も聞かないですねと答えた。僕がここに来る以前に誰かが何かを施したのであれば、この違和感にも説明がつくが、どうやらそうではないらしい。  始めからこの開かずの扉の噂自体、この学校で語られるうちに尾びれ背びれがついた眉唾物であるという可能性も否定はできないが。  とにかくこのままでは埒があかない。一度職員室に行くことになった。そこで有希から開かずの扉の話を再確認する。 「体験談はいろいろありますが、とにかく開かずの扉があって、中に入れないというのが共通している部分ですね」 「つまり、あの扉の存在が重要なのであって話そのものは意味を成していないのか」 「どういうことですか?」 「先生達の中でもそういった体験をした方はいますか?」  先生も数人は体験しているようだ。  となれば、ますます怪しくなってくる。もしかすると、これは怪談でもなんでもない。 「よし、もう一度行ってみよう。多分、それで解決する」  もう一度開かずの扉の前に行くと、僕は開かずの扉に手をかけた。やはり、鍵がかかっている。  扉に耳をつけてみるが何も聞こえない。そして最後に外に回って空間があるかの確認。 「やっぱりか」 「やっぱり?」 「この扉の向こう、つまりあるべき部屋がないってこと。本来部屋があるならば、大なり小なりの空間があるはずなんだ。けど、ここにはそれがない。なんのためにつけられた扉なのかは分からないが、もしかしたらここは改装工事か何かの過程で取り壊されたのかも」  一気にまくしたてると、一瞬だけ有希が訳が分からないという顔をしてから、すぐに気付いたように言った。 「つまり、ここは霊的なものはないと?」 「そういうこと」  真相は開かずの扉という記号からくる恐怖が生み出したものだったというわけだ。そこに怪談があるという話から恐れが生まれ、あるはずのない体験をしたと錯覚する。  よく考えれば分かるだろうが、恐怖体験というのは人間の心理が生み出す幻であることが多い。  蓋を開けてみれば簡単なものだった。  それから約一ヶ月後。有希から聞いたところによればあれ以降特に何かがあったという話はない。
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