喫茶「灰猫」

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「・・・・」  ぼんやりと、窓からの景色を眺めてみる。窓の向こう側には、特に何も変化は無い、何時も通りの風景が流れていた。  買い物袋を両手に持ってせわしなく歩く主婦。  携帯電話を耳に当て、険しい顔をしながら歩くサラリーマン。  自転車に股がり、友達と話しながら走る学生。  そんな風景を見ていると、なんだか自分ひとり、そこから取り残されていくような、そんな不思議な感覚に襲われた。 「・・・暇だな」  そんな感覚に襲われる理由はわかっている。何もせずにこうしてじっとしているからだ。自分ひとりが動かず、周りの人間たちだけが動いている。動かない自分が動いている人間たちに置いていかれているような感覚なのだ。 「ま、それも錯覚か」  僕は胸ポケットからタバコを取り出して火をつけた。一口吸って煙を吐き出す。一口目は最高に美味いと感じる、しかし二口、三口と吸っていくうちに、何でこんなものを吸っているのだろうかと考えてしまう。  でも、タバコを吸い終わったとき、なぜか満足している自分がいるのだ。 何に満足しているのかはわからない、でもその満足感を得られたとき、なんとも言えない高揚感に満たされ、またタバコを吸いたいと考えてしまう。  ま、単にタバコに依存しているだけなのだが。
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