『餌付けされた本能に潜む野生』

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 だが、人間側もただ手を拱いている訳ではない。  例の看板を立てたのは、その為だ。  地元自治体が観光客に注意を促し、被害を減らそうというのである。  更に海岸近くの商店街から有志を募り、持ち回り制で監視員を数名立て、海岸とその周辺の巡回を行い、餌付け行為をする観光客に直接口頭で注意をしていた。  しかし、人間とは利己的な生き物だ。 「はぁ?! 知らねぇよ、そんなの!」  監視員に注意された男は逆上し、相手に掴みかかった。 「餌やっちゃいけねぇなんて、聞いてねぇし!」 「いや、で、ですから、あちらに看板がありまして……」  いくら説明しても無駄だ。  男は『知らない、聞いていない』の一点張りで、聞く耳など持たない。そもそも、その手の人間には説明してやる事自体に意味が無いのだ。  彼等にとっては“餌付け出来ない”事が不服なのであり、“してはならない”理由など、どうでもいい。  男はタンクトップからこれ見よがしに露出させた太い腕を脅す様にひけらかし、ただ一方的に不平を連ねる。  あわよくば、力尽くで自分の正当性を押し通そうという魂胆だ。そういう類の人間なのである。  そして、類は友を呼ぶ。  
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