『餌付けされた本能に潜む野生』

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 この海岸の入口には、次のような看板が立っている。 ┏━━━━━━━━━━━━━┓ ┃             ┃ ┃ トンビにエサを     ┃ ┃    与えないで下さい ┃ ┃             ┃ ┗━━━━━━━━━━━━━┛  そして、その下に小さくこう書き加えられていた。 『トンビがあなたの荷物を狙っています。砂浜で散歩、食事等をする際は充分に気をつけてください』  元々は海中を泳ぐ魚を求め、この海岸上空に集まってきていた鳶を、観光客や客寄せに利用しようとする一部の人間が餌付けしてしまった所為で、“人間の手中にある物は餌だ”と学習してしまい、人の持つ食べ物を狙うようになってしまったのだ。  周囲を見渡してみれば、砂浜に腰を下ろしてハンバーガーを食う若者や、土産物屋が店先で売る焼きイカ、サザエなど、海岸の周辺は餌で溢れ返っている。  鳶からしたら、水中を泳ぎ回る魚を捕まえるより、無防備で愚鈍な人間から奪う方が、ずっと容易で効率がいい。  正しく格好の餌場という訳だ。  
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