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「…御伽坊主となる以前、まだ若い頃のわたしが、そのようなことを夢見たことが一度もないとは申せぬ」
「そうなの!? じゃあ、里沙ちゃんは?」
子どもの頃から、正妻である孝子さまの側に仕えてきた里沙ちゃんも、側室を夢見たことがあるんだろうか。
「まだ中の丸にいた頃、もしかすると御台さまより献上していただけるかもしれないと聞いたときは、天にも昇る心持ちでした…。ですから、お楽さまがおいでになって、そのお話しが先送りになったときには、正直に申して少々がっかりしたものです」
「…里沙ちゃん…」
「勘違いなさらないでください! がっかりしたことと、お楽さまのお側においていただく幸せは、まったく別のことなのですから! 今のわたくしは、お楽さまにお会いできたことが、何よりの宝物だと思うております」
あたしたちのやりとりを黙って聞いていたお梅が、流れを断ち切るように、
「では、何の問題もないではないか。そなたが慕っておるお楽どのと一緒に、仲良う側室となればよい」
と、身も蓋もないことを言い出した。
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