10 対決前夜

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「ねぇ、志乃ちゃん。覚えてる? あの時は、新月の夜だったね」 「忘れるわけがなかろう。あの夜、満天の星空のもとで闇に解けていった蘭の姿は、まるで夢のように美しかった」 真夜中、あたしたちはお庭の東屋に並んで腰をおろして、夜空を見上げていた。 凍り付いた真冬の空には今夜も満天の星が輝き、その中に、触ったら手が切れそうな三日月が浮かんでいる。 「明日…あたしは上様の御寝所に呼ばれる」 懐から文を取り出して、広げてみせる。 そこにはただ2文字、 『明日』 としたためてあった。 ふふっ、と志乃ちゃんが笑う。 「まったく、誰よりも先に側室が夜のお召しのことを知っているなんて、前代未聞じゃな」 「しょうがないでしょ、前代未聞の上様と側室のカップルなんだから」 「かっぷる?」 「想い想われる男女のことをそう言うの」 「覚えておこう。文と言えば…この度はあの不思議な文は来ぬのか?」
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