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そしてあたしたちは再び、夜空を見上げる。
こっちに来るまで、あたしはこんなにたくさんの星が空にあることも知らなかった。
圧倒的な星の輝きに囲まれた三日月が、こんなに美しいことも。
「新月まで、あと3日というところか」
はくしょん。
志乃ちゃんがくしゃみをする。
「大丈夫? 志乃ちゃんは坊主頭だから、あたしよりずっと寒いよね」
「坊主もよいぞ。少なくとも、髷の形をあれこれ思い悩まずにすむ」
「強がり言っちゃって」
「強がりなどではない。御伽坊主となって頭を丸め、打掛を脱ぎ捨ててから、わたしはずいぶんと楽になった。もう、おなご同士の諍いや、出世を競うことから解放された、と」
「志乃ちゃん…」
「先日も言うたように、わたしにも人並みに野望があった。なれど、そのようなものを抱くのは、わたしの性に合わぬ。捨ててしもうて、さっぱりした。蘭、大奥にはときに、物の怪よりも恐ろしいものが巣くうことがある。気をつけよ」
「わかった」
「おお、寒い。これ以上ここにおったら風邪をひくぞ。さ、もう休もう」
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