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「…そなたは」
上様が絞り出すように言った。
「そなたは、お振なのか?」
『さぁ、どうでございましょう…そのようにお思いくださっても差し支えございませぬが…』
「お振…」
「上様っ、その物の怪はお振の方さまじゃありません! お振ちゃんは、こんなことをする子じゃない!!」
「そうであろうか。お振が生んだのがおなごであるとわかったとき、わしは心から喜んであげられなかった。なにゆえ男児を生めなんだと、口にはせずとも振る舞いに出てしまった。だからお振は儚くなってしまったのではないか…」
「そんなことない!!」
「しかもわしは、残された千代姫の顔を見ているのが辛くて、わずか3つで嫁に出してしまった。お振が怨むのは当然じゃ」
うわごとのように言いつのる、上様。
「しっかりして、上様っ! さぁこれが、物の怪の正体よ!!!!」
あたしの声を合図に、御小座敷を囲む襖がいっせいに開いた。
そして、駆け込んできた人影のひとつが“物の怪”を取り押さえるのがまるで影絵のように障子に映し出される。
「物の怪、討ち取ったり!!」
高らかに宣言する声。
するすると開いた障子の向こうにあったのは、お梅に取り押さえられ、髪を乱したお玉。
そして、その前に両手を広げて立つ里沙ちゃんと結衣ちゃん、志乃ちゃんの姿だった。
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