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朝。とある町の中心に位置する大きな病院。
朝日を浴びるその佇まいは他のそれとはあまり変わらないだろう。
そのうちの一室。
個室であるその病室のベッドの上には一人の少年の姿があった。
彼の名前は藤堂アラト。
少し茶気の含む黒髪で病人である証の服に身を包んでいる。
「……はぁ」
もはや何度目かわからないため息を吐き出す。 外を眺めればとても綺麗な青空が広がっており、その下を鳥たちが飛び回る。
いつもと変わらない。 変化があるとすれば天気や気温の違いだけ。
やることは毎日同じこと。
――つまらない。
両足が動かず、一人ではとても外を歩くことさえもできない。
それ以前にそんな気分にさえならない。
外の陽気とはまるで正反対、彼の心は曇り空だった。
何も……何も変わらない。
「……いや、変わってしまった、か」
彼は自重気味に呟いた。
その表情には笑みが浮かんでいるが、それは貼り付けられたただの仮面のようだった。
夕方。
日が傾き、部屋には西日が差し込み病室は夕焼け色に染まっていた。
「…………」
アラトはただ黙々と本を読んでいる。
一言も話さず。しかし、その本を心から楽しんではいないようだった。
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