10人が本棚に入れています
本棚に追加
その時、コンコンッと乾いた音が部屋に響いた。
これも日課となっているのだろう。姿を見ずとも、その人物が誰だかわかっている。
「……どうぞ」
そういう風な感じを思わせる素振りでアラトはノックに答えた。
スライド式の白い扉が開かれ、現れたのはやはり予想通りの人物だった。
「やあ、アラト君。お加減はどうだい?」
「特にいつもと変わりませんよ、おじさん」
「そうか。それはよかった」
おじさん――高坂恭平はよくアラトのお見舞いに来ている。
おじさんと呼ばれているため中年を連想しがちだが、彼はそこまで年を食っているわけではない。
年は三十後半で、過去に鍛えていたのか引き締まった体つきをしている。
それでいて身長も高く、まさに“格好いい大人の男性”に見える。
お婆ちゃん格の女性からは絶賛されているとのこと。
仕事帰りなのかスーツ姿で今日は来ていた。
いつもなら私服でラフな格好をしているイメージが強いために新鮮に感じることができる。
しかし、これは“いつもとは違う”ということを意味し、“何か違うこと”が起こるかもしれない。
そういう風にも考えられないだろうか。
「実は……今日は君に渡したいものが見つかってね」
いつも通りなら他愛もない会話をして、花瓶の花を取り替えると帰ってしまう恭平だったが、今日はやはりいつもとは違ってそんなことを口にした。
渡したいもの?とアラトは首をかしげつつ尋ねる。
最初のコメントを投稿しよう!